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新・我が家の本棚 Ⅳ 【妖精編】
新・我が家の本棚 Ⅳ 【妖精編】
今回のご紹介は、日本では1998年に初版が発行されました
【夜物語 パウル・ビーヘル 作 野坂悦子 訳 小笠原まき 挿絵 徳間書店】です。
お屋敷を守りながら屋根裏部屋の人間の家で暮らす小人。
ひとりきり暮らすおばあさんを心配し夜の見回りをしたり、地下室に住むドブネズミとヒキガエルと土曜日の夜にトランプをしたりしてひっそりと暮らしていました。
そんな小人の家にとつぜん迷いこんできた妖精。
ずぶ濡れでぼろきれのように破れた羽、疲れきった様子の妖精を、嵐がおさまるまで、一晩だけ、泊めてあげることにした小人でしたが…
妖精の国、エルフの国、巨人の話など、死ぬことができない定めの妖精が「死」を探して続けた旅で経験した話に夜な夜な耳を傾ける小人、妖精が現れたことで変化していく小人とドブネズミとヒキガエルの関係、そしてお屋敷のおばあさんの「死」に立ち合った妖精が感じたことと小人たちのその後とは。
『「結婚して、子孫をのこして、死んでみたい」という願いをもった妖精が巻きこまれていく冒険の世界。小人、ドブネズミ、ヒキガエルの住むお屋敷の中の世界。その二つの世界の枠が次第にこわれ、お話はクライマックスをむかえます。』(訳者あとがきより)
作者のパウル・ビーヘル氏はオランダを代表する作家で、「世代を越えた文学」の書き手として高い評価を受けており、『おとぎ話の雰囲気を持ち、詩のように語られるこのお話は、とびきり上等な子どもの本だ…(ADクンスト・ブックン誌書評)』『昔話と同様、物語の下に深い意味がかくされ、子どもから大人まで楽しめる作品だ。(トラウ紙書評)』とあるように、【夜物語】においても1992年に発表しその翌年にオランダの名誉ある文学賞「金の石筆賞」を受賞しています。
それ以前にも多くの作品でさまざまな賞を受ける一方で、英語圏の作家の子どもの本をオランダ語に翻訳したことでも知られているそうです。
あとがきによると作者は新聞のインタビューの中で、『この本の物語は、二年近くあたためてきた。…いつも、書いているうちに、話が映画のように自然にふくらんでいく…登場人物が、話の雰囲気や流れを決めるのさ。
つまり、化学反応みたいなものでね。わたしが作り出したり、手をくわえたりするわけじゃない』(かなわぬ願いをいだく妖精について)『人間だって同じようなものだろ。
たとえば、空を飛びたいという願いがあったから、人間は進歩してきたんだ』そんなことを語ったそうです。
児童書であり「小学校中・高学年〜」との表示がありましたので、子どもも読むかな?と思い置いてみたところ、文字が小さめで話の中で別の話の世界が広がっていく「枠物語」の形で書かれた長編のためか、「ちょっと難しい…」と言って読むのをやめてしまいました。
少し早かったようです。いつか近い将来にきっと読むだろうと予測して、またそっと子どもたちの本棚に入れておこうと思います。
~工藤先生より~
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