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部活動の民間移行が進む山形県―「働き方改革」の陰で見えてきた新たな課題

教員の長時間労働を減らす目的で進められている「部活動の地域・民間移行」。山形県でも、国の方針に沿って中学校の休日活動を中心に地域移行が進みつつあります。運動部・文化部を問わず、学校外のクラブやNPOなどが受け皿となり、専門的な指導を受けられる機会が増える一方で、新たな課題が現場から浮かび上がっています。

改革の狙いと現状―「教員の働き方改革」と「専門性の強化」

文部科学省とスポーツ庁は、教員の過重労働を是正するために、2023年度から2025年度にかけて休日の部活動を段階的に地域クラブへ移行する計画を進めています。山形県内では総合型地域スポーツクラブや民間スクール、競技団体などが受け皿となり、専門指導者のもとで活動が始まっています。

本来、この仕組みは「教員の負担を減らしつつ、子どもたちに質の高い指導機会を提供する」ことを目的としています。しかし、実際の現場では教育目標と競技成果のバランスをどう取るかが課題となり、現場からはさまざまな声が上がり始めています。

長時間練習・過度な競技志向への懸念

民間移行の最大の懸念は、練習時間の長時間化と成果主義の加速です。民間クラブでは月謝を支払う保護者側の「成果への期待」が強く、指導者も競技実績を求められる傾向が出ています。結果として、文科省が定める「平日2時間・休日3時間・週2日休養日」といったガイドラインを超える活動が常態化するおそれがあります。

成長期の中学生にとって、こうした過度な練習はオーバーユース障害や睡眠不足、学習時間の減少を招く危険があります。「民間のほうが厳しい」「以前より遅い時間まで練習している」といった保護者の声も聞かれ、教育的配慮よりも競技成績を優先する風潮への懸念が高まっています。

指導の厳しさとハラスメントリスク

学校の枠組みを離れた活動では、監督責任や通報ルートが不明確になりやすいことも問題です。これまで学校内では教育委員会によるガイドラインや服務規程がありましたが、民間クラブでは指導者によって方針が異なり、暴言や体罰、ハラスメントの防止が難しくなるケースも懸念されています。

とくに、「厳しさ=指導力」とする古い価値観が残っている競技では、民間移行によってむしろ厳格化する可能性もあります。子どもたちが「好きなことを続けたい」一方で、「怖い」「辞めづらい」と感じる場面が生まれれば、本来の教育目的からは大きく逸脱してしまいます。

経済格差と地方の地理的制約

これまで部活動は「すべての子どもが参加できる教育活動」として存在してきました。しかし、月謝制クラブへの移行によって、家庭の経済状況による参加格差が拡大する可能性があります。特に地方部では平均所得が都市部より低く、月謝・遠征費・送迎費の負担が大きな壁となります。

山形県では、豪雪期の屋内施設不足や交通アクセスの制約が拍車をかけます。クラブの多くは市街地に集中しており、中山間地域の生徒は送迎に時間を取られ、帰宅が遅くなる傾向があります。特に冬季の夜間移動は安全上の問題も伴うため、現場では活動時間や送迎ルートの見直しが急務となっています。

地域で支える新しい仕組みへ

民間移行を単なる「外部委託」として終わらせないためには、地域・学校・保護者が情報を共有し、監視と協働の仕組みを整えることが不可欠です。行政はガイドラインの徹底だけでなく、指導者研修の義務化や認証制度の導入など、教育的な観点を組み込んだ枠組みづくりが求められます。

部活動改革は、子どもたちにとって「自由な学びと成長の場」を守るための制度であるべきです。競技実績よりも、健康・安全・人間性を重視した活動方針を地域全体で育てていくことが、山形の次の課題といえるでしょう。


📚 参考リンク

※リンク先は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。


◎『KATEKYO学院・山形県家庭教師協会』では、子どもたちが安心して学びと活動を両立できる環境づくりを応援しています。教育現場や家庭での課題にも、地域の視点から解決の糸口を探っていきます。

担当:プロ教師 近江直樹

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