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惺山高校が全国初のAIスーパーコンピューター導入
2025年10月30日、山形市の惺山高校が全国で初となる生成AI専用スーパーコンピューターを導入しました。保護者の91.2%がAI活用に賛成する一方、86.3%が「考える力が育たないのでは」と懸念を抱いているという調査結果もあります。校内完結型システムという新しい形での導入について、その概要と今後の展開を整理します。
今回わかったこと:SEIZAN AIプロジェクトの概要
導入されたシステムの特徴
惺山高校が導入したのは、米国NVIDIA製の高性能AIコンピューター「ASUS GX10」です。主な特徴は以下の通りです:
- 校内完結型:外部ネットワークと完全に分離し、インターネットに接続しない閉鎖環境で稼働
- 産学連携体制:惺山高校、サードウエーブ(東京都)、TERRARISE(同)の三者協力
- 多目的活用:学習支援、校務効率化、創造的な学びの三分野での活用を想定
実際の活用事例
10月30日の発表会では、商業科3年生が以下の取り組みを実演しました。
- 個人専用AI開発:趣味や性格、価値観を反映させたAIの構築
- プログラミング支援:Python、JavaScriptでのコード作成をAIがサポート
- 動画制作:ローカル動画生成AIによる作品制作
- アプリ開発:AIを活用したオリジナルアプリの作成
関義人校長は「AIは人に代わるものではなく、創造的な学習を支援するものとして活用していきたい」とコメントしています。
保護者の意識調査から見える現状
Knock教育AIラボの調査によると、保護者の意識には以下のような傾向が見られます。
- 91.2%が高校生の生成AI活用に賛成(日常的利用者の場合)
- 一方で86.3%が何らかの懸念を抱いている
- 63.0%:「すぐに答えを求め、考える力が育たない」ことを懸念
- 54.3%:「困難な課題に粘り強く取り組む姿勢が失われる」ことを心配
- 50.3%:「自分で考えることを促す仕組み」の導入を求める
賛成と懸念が共存する状況が浮き彫りになっています。
文部科学省の方針と他校の状況
国の方針転換
文部科学省は2025年10月、学校での生成AI活用に関するガイドラインを改訂しました。生成AIを「人間の能力を補助、拡張し、可能性を広げてくれる有用な道具」と位置づけ、以下の方針を示しています。
- 段階的導入:限定的な利用から始め、効果を検証しながら拡大
- 情報モラル教育:AIの性質や限界を理解させる指導の重視
- 個人情報保護:氏名や個人データの入力禁止などの安全対策
- 著作権遵守:権利侵害につながる利用の防止
惺山高校の取り組みの位置づけ
惺山高校は山形県内のICT教育において先駆的な役割を担ってきた経緯があります。
| 取り組み | 時期・特徴 | 位置づけ |
|---|---|---|
| Chromebook一人一台配備 | 山形県内で最初 | デジタル学習基盤の先行整備 |
| 教務システム「BLEND」 | 全国初採用(4年前) | 完全ペーパーレス化の実現 |
| VR授業・アプリ開発教育 | 早期導入 | 実践的デジタル教育の展開 |
| AI専用スーパーコンピューター | 2025年10月・全国初 | 校内完結型システムの先行導入 |
4年前から「ICT×新教育」を掲げ、試行錯誤を重ねてきた実績が今回の導入につながっています。
注目される効果と課題
期待される教育効果
文部科学省のガイドラインや先行研究からは、以下のような効果が期待されています。
- 個別最適化された学習:一人ひとりの理解度や関心に応じた支援
- 創造的な活動の支援:アプリ開発や動画制作など、制作活動の効率化
- 情報活用能力の育成:AIとの適切な付き合い方を学ぶ機会
- 実践的スキルの習得:プログラミングなど、技術的素養の向上
懸念される課題
一方で、以下のような課題も指摘されています。
- 思考力への影響:安易に答えを求める傾向が生じる可能性
- 粘り強さの低下:困難な課題に取り組む姿勢が弱まる懸念
- 情報の正確性:AIが生成する情報の信頼性を見極める力の必要性
- 依存のリスク:過度な依存により自律的な学習が妨げられる可能性
惺山高校の対応方針
これらの課題に対し、惺山高校では以下の対策を講じています。
- 段階的導入:文部科学省のガイドラインに沿った慎重な展開
- 教育的配慮:AIの性質や限界を理解させる指導の実施
- セキュリティ対策:外部ネットワーク分離による情報漏えい防止
- 教員の監督体制:常に内容をチェックできる環境の整備
- 保護者との連携:利用目的や方法についての丁寧な説明
Knock教育AIラボの辻本直人所長は「利用の可否を二者択一にせず、目的や場面を限定した試行と振り返りを積み重ねることが重要」とコメントしており、こうした段階的なアプローチの重要性が指摘されています。
今後の展開と注視すべきポイント
惺山高校の取り組みは、高校教育における生成AI活用の先行事例として、以下の点で注目されます。
- 校内完結型システムの有効性:セキュリティと教育効果の両立が実現できるか
- 学習成果の測定:AI活用による学力や創造性への具体的な影響
- 生徒の意識変化:AIに対する理解や活用能力の変化
- 他校への波及効果:この取り組みが全国的な導入のモデルとなるか
AI技術の急速な発展により、今後の社会ではAIとの協働が当たり前になると予想されます。教育現場でどのようにAIを活用し、どのような力を育成していくのか。惺山高校の実践は、その一つの方向性を示すものとして注目されます。関校長が掲げる「地域を支える人間を育てる」という学園ポリシーのもと、この試みがどのような成果をもたらすか、今後の展開を見守っていく必要があるでしょう。
📚 参考リンク
- テレビユー山形(Yahoo!ニュース)「高校に最先端のAIを導入 全国で初となる生成AIのスーパーコンピューター」(アクセス日:2025-10-31)
- 山形新聞「山形・惺山高、生成AIスパコン導入」(アクセス日:2025-10-31)
- 文部科学省「学校現場における生成AIの利活用ガイドライン」(アクセス日:2025-10-31)
- EdWatch「高校生の生成AI活用、保護者9割は賛成」(アクセス日:2025-10-31)
※リンク先は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。
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担当:プロ教師 近江直樹
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