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新・我が家の本棚 Ⅶ 【黒い森編】
新・我が家の本棚 Ⅶ 【黒い森編】
夏休みをはさみましての再開です。
今回は1997年初版発行、小学5年生と1年生の兄弟の冒険と成長の物語【魔の森はすぐそこに…… 田村理江 作 堀川理万子 絵 偕成社】をご紹介いたします。
『ぼくには弟がいる。泣き虫の一年ぼうずだ。
ぼくらは 都心から郊外に引っ越してきた。
コンビニもないド田舎なんて嫌いだけど
弟は 気にいっているみたいだ。
窓から見える深くて黒い森に 弟はひかれている。
ぼくは決めた。弟を 森の中に消してしまおう……』
道雄(ミチオ)と飛雄(トビオ)は「できる兄と、できない弟」という感じの、でも、面倒見の良いお兄ちゃんとそのお兄ちゃんが大好きな弟、そんなどこにでもいる兄弟。それなのに、なぜ、弟を森の中に消してしまおうなんて恐ろしいことを思いついたのでしょう。
弟のトビオは人見知りで新しい学校に行くのも不安。
兄のミチオに連れられなんとか登校します。
家からも学校からも見える森がそんなトビオの気を引きます。
やがて、森には大きな町があって大好きな遊園地もある、お家もいっぱい並んでいる、犬が迎えに来て連れてってくれるんだ、そんな不思議なことを言い出します。
そしてミチオ自身の森の記憶。
その恐ろしさのあまり封印していた3歳での出来事の記憶が、思いがけず訪ねてきた「いとこ」との会話で呼び戻されます。
『「H県の伝説にあるんだ。森の奥に、この世とはちがう〈あやかしの町〉ってのがあって、美しい女の人が子どもをさそうんだ。さそわれた子どもは、二度ともどらないって。」』
『うんと小さなころ、ぼくは森で、女の人を見た。すごくきれいな……。』
『森。美しい金の髪の人。こことはべつの世界にさそう歌。行く手の、あやしい町……。』
転校先で出会うタコのようなトビオの担任の先生、モデルのようにきれいな金髪の外国人のミチオの担任の先生、お父さんとお母さんの新しい家をめぐっての口げんか、トビオの絵の内閣総理大臣賞受賞などなど、日常生活でのいろいろな出来事が、兄弟を怪しい森へと誘います。
そして…
『ぼくには弟がいる
でも
きょうはじめて
本当の〈にいさん〉に
なれた気がする』
日常から魔の森へ、怖いけれどあったかい、そんな物語です。
本棚からコラム用にと取り出して夏休み中に中断している間に小学生の娘が読み、「学校から借りてきたのじゃなくてこの本で書く。」と言って夏休みの宿題の読書感想文を書いていました。
自分にもお兄ちゃんがいて、大好きなんだけれどけんかしたり怒られたりで嫌いになる時もあって、でもやっぱり頼りになる大好きなお兄ちゃんで。
そんな自分の気持ちが弟のトビオと重なって、お兄ちゃんの気持ちは兄のミチオと似ているのかもしれないと感じるところがあって、物語自体のドキドキ感を楽しむだけではなく兄弟に対して親近感をもったのかなと、娘の感想文を読んで思いました。
~工藤先生より~
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